「ビジネスにおいて正しい判断をする為の心理学Ⅰ」で5種類の認知バイアスを知る事でビジネスの判断ミスを避ける事ができると話しました。今回は対人関係を科学的視野で考えて見ましょう。対人関係も認知バイアスを知る事で、客観的に見る事が出来れば、「悩む」と言う感情の「囚われ」から自分自身が解放されます。

   人間は思い込みをする生き物であると同時に、感情が先立ち、自分の事を客観的に見れない生き物でもあると科学的に解明されています。つまり、人間は常に「自分の都合」と言うフィルター越しに物事を見ています。この思い込みは無意識でも発動しているので、それを知って、矯正すれば、人間関係がより円滑になります。

   今回は、5種類の認知バイアスを説明します。

ダニング=クルーガー効果

   英語: Dunning–Kruger effect   中国語: 邓宁-克鲁格效应(略して「邓克效应」)

   1999年に定義されたもっとも有名な社会関連の認知バイアスで、名前はコーネル大学の研究者デイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーに由来します。人間が自分自身の不適格性を認識(メタ認知)できないことによって生じる現象です。特定な分野に限らず、スポーツ、学問、ビジネス、論理思考にまで見られる傾向です。

能力の低い人ほど自分を過大評価する(内部に対する過大評価に起因する)

能力の高い人ほど自分を過少評価する(外部に対する過小評価に起因する)


   中国でもこの定義は有名で、10文字に纏められています。

越差越牛逼,越强越谦虚


   歴史的にその「優越の錯覚」を生み出す認知バイアスはずっと存在していました。例えば紀元前469年-紀元前399年、ギリシアの哲学者ソクラテスは「無知の知」について語っていました。他にも中国の哲学者孔子、イギリスの劇作家ウィリアム・シェイクスピア、チャールズ・ダーウィンもこれを語っていました。

   1872年–1970年、哲学者および数学者のバートランド・ラッセルも「私達の時代における苦しみの一つは、確信を持っている人間は愚かさに満ちており、想像力と理解力を持っている人間は疑いと執拗さに満ちていることだ」と語っていました。この言葉通り、自分と他人、行動者と観察者の立場によって、様々なバイアスは人間関係において、苦しみを作る出す事が多いのです。

   自分の周りにこんな人はいませんか?
・人の事をあれこれ批判口調で言い、常に上から目線の人
・自分が上がれない分、他人を蹴落とす事で自分の点数を稼ぐ人
・問題解決に理屈が通らない、話せば話すほど脈絡が無くなって行く人
・仕事を説明しただけなのに、勘違いして逆にマウント行為をして来る人

   もし職場にそんな人がいれば、自分が巻き込まれないように、できるだけ離れて付き合わない様にしましょう。筆者も経験した事が何度もありますが、これは科学的に証明された現象の一つであると解っていれば、人間関係に悩む事は必要のない事だと解ります。何故ならそれは、

無能である自分を認めたくない内心が原因で起こる「優越の錯覚」です


   相手をついつい自分と同じ感覚で接するから、どうしてそんな事を言うの?なんでそんな事をするの?と思うわけで、客観的に相手の能力レベルの評価偏差を矯正し、それに相応した対処方法を見つけ、自分にとってマイナスが多いのなら、できるだけ近づけさせない、寄らない、付き合わないようにしましょう。

   そして自分自身にもバイアスがかかているかも知れないので、常に謙虚な姿勢を保ち、学ぶ事を忘れないようにしましょう。特にコミュニケーションのアウトプットは方法を間違ってしまうと、他人から自分の事を無能にしか見えなくなるかも知れません。

自己奉仕バイアス

   英語:Self-serving bias   中国語:自利偏差

   動機付けられた認知バイアスの一種で、その定義は、

 成功を当人の内面的または個人的要因に帰属させ、
失敗を制御不能な状況的要因に帰属させる


   人間にある一般的な傾向ではないでしょうか。成功は自分の手柄、失敗は他に原因があると言う思い込みです。原因は人が自尊心を保つ為に、自分自身に心地よくいられるための動機にあります。

   もう一つの側面は人からどう見られているかを戦略的に制御しょうと言う気持ちがあり、他人は別になんとも思わないのに、それでも人は好意的な印象を与えようとして発言し、行動するものです。成功は称賛されるが失敗は非難され、非難からはなんとかかわそうとします。

   曖昧な情報を都合の良いように解釈しようとする傾向として現れる事もしばしばあります。

   例えばこう言う事象です。
・成績がいいのは自分の頭がいいし、良く勉強したから、
   成績が悪いのは先生が自分の事を嫌いだからと言う思い込み
・レストランで子供がコップを落としたら「何してるの」と責め、
   自分がコップを落としたら従業員に「どうして奥におかないの」と他人のせいにする
・ビジネスで業務損失があると、担当者は為替など外的要素に原因があると言うが、
   同僚や管理職はその業務担当者自身の行動に責任があると言う傾向がある
・自分の主張を補強する証拠は過大評価し、反対の証拠は過小評価する
・交渉双方とも自分の都合にいいように事実解釈すると、偏差が倍になり、
   相手がはったりをかましている、和解するつもりが無いと考えて交渉を打ち切る
・ビジネス業界では集団レベルで自己奉仕バイアスが働く集団奉仕バイアスがある

   あなたの失敗はあなたの責任、私の失敗は私のせいじゃない、非常に厄介です。

自分を棚に上げている


   自分の事を意識して、自己奉仕バイアスに囚われないようにしないと、結果的に誰も居心地が良くなりません。せめて「私」だけでも、原因はどうであれ、私の失敗に私が責任を取れるようにしましょう。

自己高揚バイアス

   英語:Lake Wobegon effect   中国語:乌比冈湖效应

   英語名の由来はアメリカのある30年以上続いている人気番組の司会者が作った設定から来ています。劇作家でもあるガリソン・キーラー(Garrison Keillor)はその番組で「News from Lake Wobegon」と言うトークコーナーを持ち、毎週、アメリカ中部にある自分の故郷と言う設定の町 Lake Wobegon で起こった面白い出来事を話しました。

   設定では、町の女性はみな強く、男性はみなハンサムで、子供はみな平均以上の良い子ですが、毎週話される面白い出来事は笑いを誘い、そこから住民は言うほど聡明な連中でもないかとわかります。このユーモアたっぷりの人気番組から町の名を使ったバイアスは、自分の出身のプライドに関わる過大評価と言う意味になります。

個人の自尊心の拠り所となっている分野で平均以上だと信じているために生じるバイアス


   中国でも注目されている現象です。

人的一种总觉得什么都高出一等的心理倾向,即给自己的许多方面打分高过实际水平


   例えば、
・自動車の運転を生業とする人の多くは、自分が平均以上に運転技術がいいと思っている
・料理を生業とする人の多くは、自分の料理の腕は平均以上と思っている
・ピアノの腕が認められると、音楽は誰にも負けないと思う

   知って置いて欲しいのは、自分が思い込みで満足させられるのは自分だけであって、自分の評価は他人がするものです。

根本的な帰属の誤り

   英語:Fundamental attribution error   中国語:基本归因错误

   基本的帰属錯誤、基本的な帰属のエラー、対応バイアスとも言い、社会関連に分類される認知バイアスです。

他人の行動を根拠なくその人の質によると言う見方をして、社会的、状況的な影響を軽視する傾向があり、また、自身の行動については逆の見方をする傾向がある


   特に観察者の立場にいると、周囲の状況や客観的に条件よりも、行動者の挙動をずっと観察し易い事から、行動者自身による原因だると、過ぎた個人責任追及をしがちです。

   良く考えると、それ関係なくない?と言うようなこと、例えば、
・待ち合わせで良く遅刻する人を「あの人は性格が悪い」と決めつける
・あの子と仲良くできるのに、どうして私とは友達になれないの、とひがむ小学生
・営業成績不振の時は、競争相手の実力を認めず、営業マンの努力不足を責める
・昔、良く聞くのは「自分の生活をきちんとできない人は勉強も仕事もできない」
・貸したペンを相手が忙しくて返せないでいると、金を借りて返さない人と決めつける
・あの人は昇給できたのに自分は給料をあげて貰えない、世の中は不公平だと嘆く
・男は働いて家族を養わなきゃならないのに、女はいいよな~と言うアホ
・あいつとは付き合うのに、なんで俺とは付き合えない?と言うバカ

   このバイアスは一番深刻ではないでしょうか、いじめに発展させ自殺まで追い込むのは、大抵このバイアスによって、直接関係のない事実で、誰かを追い詰めてしまうのです。自分が追い詰められそうになったら、即座に相手が主張する事象と事実の関係性を問いただし、必要なら自分の置かれる状況と成り行きを、これでもかと言うほどに説明をしてあげましょう。

   このバイアスに掛かった人、多くの場合は、はっきり言って頭が悪いです。自分で納得させられない場合は、必ず協力者を求めて解決し、以降はは寄らない、近づかない、付き合わない事です。
 

後知恵バイアス(後見バイアス)

   英語:Hindsight bias   中国語:后见之明偏误

   人間にとって、実際に起きた事象は、起きなかった可能性よりも顕著で、可能性の思考も引きずられる事があります。もともと選択肢に入っていなかった事が、あたかも自分が判断できたと感じてしまいます。

物事が起きてからそれが予測可能だったと考える傾向


   このバイアスは、政治・ゲーム・医療など様々な状況で見られ、思い起こす作業において、誤った理論で結果を導き、人の判断力に影響し、本当の記憶を見失う可能性がます。

   例えばこんな事象があります。
・公園で子供達が遊んでいるうちに喧嘩になり、親が「だから言ったじゃない」と言う、
   言ってなかったのに、偶然だった筈の喧嘩をまるで予測できたように言う
・部下がミスした原因を自分自身見つけ、落ち込んでいる横で
   「なんでそうしなかったの」と言う上司、軽く追い込んでます
・道路の溝にヒールがハマってしまい、転んだ時に隣りからの一言、
   「そんな靴を履くから~」、TPOに必要だったヒールの靴でも自分が二度傷つく
・母親が今日は何を食べたい?と聞いたら、子供が外でお寿司食べたいと答えると、
   父親が横で「ほら見ろ、外がいいよね」の一言は、かなりうざい
・法廷での目撃者証言で最悪の場合、事件と言う事実に印象付けられ、
   容疑者をあたかも犯人のように、誤って導かれた記憶で証明する最悪のケースがある
 
    特に過剰な自信を持っている人だけでなく、回りにこのバイアスがある人は結構多いのです、みんな自分の予測能力を無意識に高く評価しています。知らなければそんな無責任な言葉で自責の念に囚われてしまいますが、知って置けば、聞き流すか対策を講じる事ができます。

   訳がわからなく責められたと感じたら、「後だから言えるよね」、「普通はこうならないのに、良く知ってるね」と言葉で返してあげましょう。仕事などでは、「起こり得る別の事象」を検討することで、このバイアスの効果を低減させる事が出来ます。

   生活や仕事の上で、無意味に心の負担が増やされて行くのは勘弁して欲しいですよね、認知バイアスとは認識上の偏差であり、相手の偏差と自分の偏差で2倍しんどい場合もありますので、相手への見方だだけでなく、自分のバイアスも矯正しましょう。これだけでも、随分人間関係が楽になる筈です。


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