ビジネスに限らず、人が生きて行く上で、常に物事に対する判断力が求められます。時として第三者要因や取り巻く環境によって、避けられない判断ミスが存在します。そんな時、自分はどんな立場にいますか。

☞ 平社員の判断ミスは、仕事の品質や進度に影響を与えるもので、
    やり直す手間と追い込む時間をかければ、挽回できるチャンスがある
☞ 中間管理職の判断ミスなら、プロジェクト全体や企業目標に影響を及ぼし、
    代償が大きいわりに挽回できる可能性が低くなる、予め判断ミスを避けるべし
☞ もし代表や取締役の立場なら?その判断ミス一つで会社の倒産を招く恐れがあり、
    非難を一身に集め、株主会議からは責任を追及される

   もし、多くの判断ミスは避けられる事を知れば、自信を以て仕事を推し進められると思いませんか。

   判断ミスの原因は、殆ど認知バイアスによるものであると、心理学分野で科学的に研究した結果があります。認知バイアスとは「思考の偏り」であり、自己防衛の為に、様々な危険や懸念が要因で起こり得るものであり、ある人はそれを「偉大で厄介なメカニズム」と呼びます。

簡単に言えば、人間は「思い込み」や「感違い」をする生き物である
同時に、人間は感情が先立ち、自身を客観的に見るのが苦手な生き物である


   認知バイアスは人間本質の一部と理解出来れば、判断材料を自身の内にではなく、取り出して見えるようにしてから、客観的に矯正する事で、判断ミスは避けられます。

   認知バイアスは数多くの種類が解って来ましたが、まだ未知なものもあり、時には相互作用したり、連携作用したりします。ここではビジネスにおいて、バイアス矯正によって判断ミスを防げるものを、幾つか下記します。

ハロー効果

   英語:Halo Effect   中国語:光环效应

   社会関連に分類されている認知バイアスの一種です。ハローとは聖人の像に見られる頭の後ろにある光の輪を指し、俗に言うオーラのようなものです。その定義とは、

ある顕著な特徴に引きずられて、他の特徴についての評価が歪められる現象

   評価がプラス方面にバイアスがかかった例は、
・人気芸能人を広告塔になると商品のイメージが良くなって、売れ行きが伸びる
   実際はその芸能人と商品は全く繋がりがなくても関係なく現れる現象である
・小汚い外見で、だらしなく見える若者が、有名大学在籍と聞いただけで、
   すごい研究者に見えて来て、小汚さも研究に没頭してるからと思うようになる
・合コンで年収が高いと聞くだけでカッコよく見える
・「難関大学」の卒業生だから、仕事ができると判断される

   強い特徴による期待値が高すぎる事で、判断ミスをしてしまいます。

   評価がマイナス方面にバイアスがかかった例もあり、公式にはないが、逆ハロー効果と呼ぶ人もいます。
・「親の七光り」で威張り散らす有名人のご子息
・美人だからその特徴を使って詐欺を行う
・イケメンだからと言って女性を単に貢ぐターゲットとする
・警察なのに痴漢で捕まる
・政治家なのに汚職事件を起こす

   真逆のイメージだけに、罪が重く感じてしまうのが普通の人間の感覚です。。

   このハロー効果を戦略的販売に利用しているところが多いのです。例えば、
・営業員はイメージ作戦で、短い髪にアイロンしたシャツ、ビシッとしたスーツ
・洗剤や衛生用品などの広告は清潔なイメージのタレントを起用
・本の帯には有名人の推薦
・TPOのイメージに合わせて服のコーディネートをする

   身の回りによくある事象ですが、過去にあった固定イメージを特徴に、ハロー効果を期待するものです。客観的に考えれば、提示された特徴と導かれる結果の間には≠しかないですよね。しかし、

人は勝手にある強い特徴によってイメージを作り上げ、思い込みをする

   それを理解し、ハロー効果の差分を良く見極める事ができれば、判断ミスは避けられます。

経験論

   英語:Empiricism   中国語:经验主义

   経験主義とも言います。心理学的事象と言うよりも、哲学的心理学立場と言う方がより正しい表現です。科学が進歩するまでは、個人的経験に基づいて、物事を判断する事でしたが、現代科学の哲学ではその解釈を批判しています。正しい定義は、

経験論とは、客観的で公的な実験、観察を言う


   人は積み重ねられた経験値が高いほど信用されるようになりますが、成功経験には確かな自信と喜びを味わわせる為に、思考のパターン化が生じます。そのまま過去の成功パターンを取り出し、客観的な条件を確認せずに使えば、大きな判断ミスを招く恐れがあります。

   成功には各要素のタイミングがあります。各要素とは見逃せない客観的事実であります。それらの客観的事実を注意しなければ、

過信は油断を生む


   成功経験を活かす時の判断ミスを避けるには、「前提」と「客観的条件」と「範囲」の見極めが肝要です。プロジェクトの纏めが得意で、業績が優秀で器用な人材ほど、陥り易い判断ミスのトラップです。

アベイラビリティバイアス

   英語:Availability Bias   中国語:可得性偏差

   信念形成分類の認知バイアスの一種です。その定義とは、

記憶が鮮明な直近の見聞きした出来事、
古い記憶の中でインパクトの強い事柄を重要視してしまう心の働き


   新しい記憶に関しての特徴は、それが必要か、必要でないかに関わらず、新しい出来事に関連する「新しいアイディア」を求めてしまうところにあります。例えば、
・井戸端会議の多くは新しい刺激だけで特に生産性はない
・会議で現状把握から始めると、導入部乃至会議全体が台無しな結果になりかねない
・人気株が売られる時はメディアがこぞってニュースにするから多くの投資家が煽られる

   人の脳は常に自由な繋がりを求めてしまうので、目的意識を再確認し、進行などを可視化する事で、判断ミスにならないよう、戦略会議なら情報収集の範囲、分野の範囲を意識的に広げる事で、対策を講じる必要があります。多種多様なイメージ画像を使って、思考や記憶を刺激するのも有効な方法です。

   古い記憶にあるインパクトの強い事柄の場合、例えば経験も無いのに無理、できないと思う事ってありますよね、それがインパクトの強い事柄によって導かれた判断ミスである場合が多いです。

   例えば、
・幼少時のトラウマに関係している事象で狭所恐怖症や高所恐怖症
・依頼性の強い親や親族から繰返し叩き込まれた不充分、不確実な情報
・繰り返して見る好きな映画や愛読書で強く記憶したバーチャル的恐怖や不安
・9・11事件以降飛行機に乗れなくなった人の心理
・バブル崩壊で痛い目に遭った事がある人はそれ以降、良い投資機会を逃す事がある
・身の回りに癌になった人がいると、自分が具合悪い時に癌じゃないかと思い込む

   このバイアスは自分の記憶や直感で物事を判断して行動する場合に陥り易い判断ミスの罠です。日常生活において、思い当たる事が多いではないでしょうか、本当に良くある現象です。悪い記憶は人の判断を歪ませるので、忘れるに限ります。

人間の記憶ほど頼りにならないものはない


   仕事の場合、例えば誰かから良く聞いて耳慣れした会社名を、偶然第三者から聞くと、有名な企業だと勘違いし易いのです、そこで取引関係を持つと、実は業界の中でもランクが下なら、損失が生じるかも知れません。この場合、記憶に頼らず企業調査を行えば、判断ミスは避けられるものです。

アンカー効果

   英語:Anchoring Effect   中国語:锚定效应

   心理学分野で認知バイアスの一種です。アンカリングと呼ぶ時もあります。アベイラビリティと違って、本来持っている特徴ではなく、情報が不十分な時に、他人から与えられた特定な特徴や数値を強い印象として残し、意識するようになります。

先行する何らかの数値(アンカー)によって後の数値の判断が歪められ、
判断された数値がアンカーに近づく傾向がある


   実際の例として、
・宣伝販売である商品が今日だけは1万円引きと言われれば、安い、買う方が得と思う
・今は特別に2つで同じ値段と言うキャンペーン商法
・テレビで良く見るメンタリストが良くこのバイアスを利用します
・刑事の誘導尋問

   ビジネスに置いては、アンカリングが発生頻度は多い筈です。例えば中小企業が5000万の投資額で中国進出を慎重に考えているところ、おもむろに「業界有名なA社は5億投資した、規模の小さいB社でも3億投資した、御社は幾らと考えてます?」なんて言われると、「あぁ、1億くらいに」とか、自己予想と遥かにかけ離れてしまう事を言ってしまいます。集団社会に生きる人間が和の為に、他人に同調する悲しい習性からでしょうか。

不確かな情報を他人に提示されると、人は調子に乗って流され易い


   まず数字や条件をインプットしてくるような話し方をするアンカー設定者には、特に注意して下さい、何らかの目的を以て、最初から人の判断ミスを誘うつもりで話かけています。逆に営業目的がはっきりしている時は、戦略的にこのバイアスを使うと言う事もあり得ます。

確証バイアス

   英語:confirmation bias   中国語:確認偏誤(確認偏差、驗證性偏見、我方偏见)

   認知バイアスの中でも強いバイアスの一種で、強烈な情緒的問題や伝統概念の問題に表れやすい、記憶やデータ収集から選択的に、自分の考えや説を支持するものを集める傾向があります。その定義は、

稀な事象の起こる確率を過大評価しがちである

   確証はあるべきですが、もし確証しかないのなら、物事を全面的に考える事が出来ず、判断ミスが起こり易いのです。

   中国戦国時代の古い書に理解し易い事例がありました。ある人が仕事用の斧を失くしてしまい、隣りの息子さんが取ったと疑いかかり、その息子を観察するようになります。その息子の歩く様子、顔の表情、話し方、全部が盗人に見えて来ます。暫く後に斧を失くした人が山に入り、山の中で斧を見つけました。次の日、隣りの息子を見かけました。彼の話し方も挙動も、どう見ても盗人には見えなかったと言う。

   現代のケースで見れば、
・自分の提案したプランに対し、図面、データ、事例、分析を集めて、証明しょうとする
・雑誌で血液占いが好きな人は、ついついA型は面倒、B型は雑と周りの人を分類する
・たまたま3回の外出でずっと雨だったから、自分は「雨女」「雨男」と信じてしまう
・警察が状況判断で犯人を決めつけ、えん罪を引き起こすと言う悲しい結末

   人の脳は情報を得られない時に、もっともらしいストーリーを作り上げようとします。そのストーリーに、信じられないほどの自信を抱き、それを証明できる情報を集めようとします。大きな判断ミスを招く事があります。

人は見たいものを見つけようとする生き物


   客観的に証明できる資料がない場合において、「確かにそうだった」と思うと同時に、必ず「そうでなければどうなる」を自分に問いてみて、逆説によって証明ができるのなら、判断ミスは避けられます。

   ここではビジネスの判断に役立つ部分だけに触れましたが、確証バイアスは実社会に関わる事象が多く提起されていますので、wiki の記述をぜひ一度目を通して見て下さい。

   今回は5つのバイアスについて、例を挙げながら説明して行きました。日常に置行ける些細な心の動きが、みんな心理学に通じていると気づいた時は、仕事が楽しくなりました。まだまだ知れば、判断ミスを避けられる認知バイアスがありますので、続きは次回の投稿にしたいと思います。 ⇒ ⇒ ⇒ ビジネスにおいて正しい判断をする為の心理学Ⅱ

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